三菱UFJフィナンシャル・グループや三井住友フィナンシャルグループ…など、高配当銘柄が多く人気の銀行株。
ただし、高配当だから人気だからという理由で投資をすると、急な株価の下落に見舞われて含み損となってしまい、配当で得られる以上の損失を被るかも!?
また、高配当もその源泉は利益!
その銀行が配当に足るだけの利益を毎期安定的に稼ぐことが必須です
そのために知っておきたい銀行株の特徴やリスクを紹介していきます
銀行株を持っている、または、買いたいと思っているけど実は銀行株のことを深く知らない、という人に役立つ内容を紹介していきます
なお、以下の通りで略称を使用していきます
MUFG:三菱UFJフィナンシャル・グループ
SMFG:三井住友フィナンシャルグループ
みずほ:みずほフィナンシャルグループ
あおぞら:あおぞら銀行
目次
銀行株の特徴とリスク
銀行株は他業種と比較しても異質な業種です
これを知らずして投資をすると、好調な時はもちろん問題ありませんが、不況・不調に陥った時に予想していなかった多額の損失を計上により配当ストップ、そのうえ株価が暴落…なんてことにもなりかねません
個人株主である僕たち程度では株価の暴落を防ぐことはできませんが、銀行株の特徴やリスクを知っておくことで、
・高配当が継続できるかどうか
・利益の悪化や株価の暴落を察知できるかどうか
この大事な2点において対応がまったく変わってきます
以下では上記の2点も念頭に置きながら見ていきます
銀行株の特徴
自己資本比率やROAの低さ
銀行株の大きな特徴として言えることが、資産と負債の規模が非常に大きいことです
これは昔から多額の資金(主に預金)を集めて、その資金を貸し出すことで、利息収入を得るというビジネスモデルだからです
近年は金利の低下もあり、このモデルだけでは稼ぐことが難しくなってきており、このモデルからの収益比率は減少してきていますが、それでも主要な事業であることは変わりありません
一般に企業や僕たち個人がもつ預金は資産に分類されるものですが、銀行は預金者から預かりいずれ返却するものであるため、預金は負債に分類されます
これにより預金者から預金を集めれば集めるほどに資産と負債が膨れ上がるため、
預金が増える
→ 負債が大きくなる
→ 自己資本比率が低下する
という流れになります
そのため、一般的な銀行株の自己資本比率は10%程度と、他の業種では危険と見なされる水準しかありません
また、近年は金利が低下し、貸出金利が低いことが拍車をかけていますが、貸付に対する利息収入は数%程度、近年は1%前後です
もちろん、資金は貸付だけではなく、国債などの債券や株式、投信などの有価証券でも多額の資金を運用してますが、それでも1~3%程度の利回りです
ここから経費などの費用を引いていくので、もうお分かりの通り、ROAはほとんどの銀行が1%にも届かず、0.2~0.4%のような低い数値にならざるを得ません
ROA:総資産経常利益率を前提
総資産に対する経常利益の割合(%)
これは銀行株の特有のビジネスモデルの結果であり、自己資本比率やROAなどの指標を一律に基準を決めたスクリーニングをすると、まず銀行株は除外されてしまい、個人的には適切なスクリーニングとは言えないと思っています
特に自己資本比率での安全性の判断には大きな問題もあり、多面的な視点が必要です
銀行株は銀行業の貸付や有価証券からの収入、大手であればその他証券やリース、カードなどがあり、収益の多角化や安定的収益を生み出す源泉などもあり、注目すべき業種の1つと考えます
金利の影響
現在は日本以外の多くの国で急激な利上げを実施しています
一方、日本は金融緩和の維持を続けています
この影響が最も顕著に出ているのが為替、次に債券価格や株価といったところでしょうか
話を戻しますが、金利の影響は銀行株にどのような影響を与えるか
実はこれを説明するのは難しく、答えも意見が分かれるところでもあります
あくまで個人的な意見としてではありますが、基本的には、
金利の上昇 → 資金取引の収益の向上
金利の低下 → 資金取引の収益の悪化
の図式は長期的には成り立ち、これは容易に想像つくと思います
しかし、短期的にはこうはなりません
なぜなら政策金利が上昇したからといって、企業や個人に貸し付けている金利も、同じように上げられるかと言えばそうではないからです
住宅ローンをイメージしてもらえるとわかりやすいですが、一律の金利ではなく、借りたタイミングにより金利が違うのが一般的です
そのため長期的には徐々に貸付金利も上昇するが、短期的には効果が出にくいことが理由です
これ以外に業績に大きな影響を与えるものがありますが、こちらは後ほど「銀行株のリスク」のところで説明します
経費率
銀行株を保有しててもあまり注目されませんが、重要なポイントとして「経費率」があります
経費率 = (営業)経費 / (連結)粗利益
※(連結)粗利益:一般的な売上総利益のようなもの
銀行株の現在の経費率は60~70%程度が一般的です
例えば、60%を切るあおぞらは非常に優秀、新生銀行は70%を超えており、構造改革が急務な状況です
この経費率は何が重要かというと、その名の通り経費の割合のため、収益性を示す重要な指標です
経費率が低いほど収益性は高くなります
この経費率を見るだけでもあおぞらの収益性は非常に優秀で、高配当を続けてこられたことがよくわかります
銀行株へ投資を検討する際、この経費率は必ずチェックしておくべき指標の1つです
なお、大手3行とあおぞらの2022.3期の経費率を載せておくと、このように違いがあります
MUFG:69.3%
SMFG:61.8%
みずほ:62.9%
あおぞら:56.1%
経費率だけ見ると、あおぞらは優秀な一方、MUFGは収益性が悪いともいえ、大きな違いがあります
謎に多いよくわからない項目
銀行株の貸借対照表や損益計算書には、他の業種では見ない勘定項目がたくさん出てきて??となります
いくつか例を挙げると、
- 特定取引資産/負債/収益
- 買/売現先勘定・買/売現先利息
- 支払承諾見返/支払承諾
- 債券貸借取引支払保証金/債券貸借取引受入担保金/受入利息/支払利息
etc
???ですよね
僕は会計士をしています(ました?)が、銀行を扱ったことがなく、知らないものがほとんどである程度勉強はしました
知っておきたい方は、一般社団法人全国銀行協会のHPに各勘定項目の説明が一覧で掲載されていますので、こちらをご参照ください
企業分析をされる方で銀行株を検討される場合には、必ず理解しておく必要があります
銀行株のリスク
銀行株の大きなリスクと言えるのが、
- 金利の変動
- 貸付に対する与信費用
- 有価証券の保有額とその評価額
の3点です
この3点は、ほとんどすべての銀行株に潜在的に存在するリスクです
多くの銀行が、リーマンショックの時などにこれらのリスクにより、過去に多額の損失や費用を計上しています
銀行は多額の預金を集めて、その預金はほとんどを「貸付」と「有価証券(債券や株式、投信など)」に運用することで利益を得ることが主要なビジネスモデルの1つです
しかし、利率の変動による収益性への影響リスク、貸付の経営破綻などよる回収できないリスク、有価証券は評価額が下がることによる含み損・実現損のリスクがそれぞれ存在しています
このそれぞれのリスクについて具体的に見ていきます
金利の変動
「銀行株の特徴」のところですでに金利の影響の話は簡単にしました
再掲になりますが、長期的には、
金利の上昇 → 資金取引の収益の向上
金利の低下 → 資金取引の収益の悪化
となり、金利の変動が銀行株の収益の向上、悪化に大きくかかわってきます
リスクとして、金利の低下を見ていくと、
資金を調達するためのコスト(預金利率)は下がるが、それ以上に収益の源泉である貸出利率も下がり、貸出利率のほうが低下のほうが大きいため収支が悪化します
実際に金融緩和が実施されてからは、銀行株の資金取引の収益性は悪化してきました
特にこれにより体力のない地方銀行などは、赤字に追い込まれているなど深刻です
そして、注目すべき問題は金利が上昇する局面です
上記の逆であるため、銀行株の収益性は向上する…と言いたいのですが、現在のビジネスモデルではそう簡単ではありません
上記の逆の状況となるため、記載の通り長期的には貸出利率の上昇により資金取引の収益性は向上します
しかし、短期的には収益性が悪化する可能性のほうが高いです
なぜか?
有価証券の保有と評価額に大きな理由があり、本項目の3番目にて改めて説明します
貸付金額とその与信費用
銀行株では、資産(預金者から集めた資金)の運用の多くは「貸付」です
どのくらいの割合かは各行によりますが、参考に後ほど取り上げているMUFG、SMFG、みずほ、あおぞらの2022.3期の総資産に対する貸付金額を見ていくと、
MUFG:29.5%
SMFG:35.2%
みずほ:35.7%
あおぞら:49.3%
となっています
金融グループの規模が大きくなるにつれて、特定取引資産なども含めた有価証券の保有やその他の資産が増えるため、比率が低くなっています
銀行は預金を集めて貸出して利息を得るビジネスモデルであるため、特に問題がある点はないです
貸付金額に対する貸倒引当金(与信費用として過去計上した引当した金額)は、貸付金額に対して多くは1%前後となっています
ただし、リーマンショックや不況時になるとこの比率が上昇します
仮に現在の残高に対して1%上昇するだけで、貸付金額の1%を費用・損失として計上することになり、1%といえども多額です
ちなみにMUFGでは、2022.3期「貸出金」残高:110兆円、もし1%上昇すれば1兆1,000億円の費用計上、経常利益のほとんどが吹き飛ぶ計算です
また、最近はマレリの経営破綻でも各金融機関の貸倒れにより、損失負担が話題になりましたが、
過去のJALなど大口融資先が経営破綻などした場合には、貸付すべてが損失となるリスクも常にあります
これが銀行株に常に存在する損失リスクであり、個人投資家レベルではどうしようもないですが、このような大きなリスクがあることは知っておくことが大事です
有価証券の多額の保有とその評価額
銀行株が比較的多額に保有しているのが国内外の国債、その他債券です
債券は金利が上昇すれば価格が下がるという関係にあります
そのため、現在は多くの銀行株にて外国債を中心に大きく評価額を下げており、今後損失が発生するリスクが高くなっています
株価も債券の利回りが上昇すると株式の相対的な利回りが下がるため、その分株価が下落する傾向にあります
実際に2022年に入ってからは、米国株中心に世界的な利上げと株安となってしまっています
これにより保有する債券および株式、投信などその他有価証券も同様に軒並み評価額を下げる、その影響が大きくなると損失計上に迫られることになります
多額の含み益を有していた3メガバンクも2023.3期はおそらく大きく含み益を毀損する、債券は含み損に陥る可能性が非常に高いです
三菱UFJフィナンシャル・グループ
MUFGの主な財務等の内容を紹介します
貸出金の割合:29.5%
貸出金利:国内 0.79%、海外 1.33%
貸倒引当金の割合:1.1%
有価証券等の割合:26.0%
有価証券等の含み損益:1.6兆円
経費率:69.3%
ROA:0.4%
ROE:6.7%
※2022.3期時点の数値
割合は貸出金と有価証券等は総資産に対する、貸倒引当金は貸出金に対する割合
その他投資ポイントに興味があれば以下の記事も参考にしてください
三井住友フィナンシャルグループ
SMFGの主な財務等の内容を紹介します
貸出金の割合:35.2%
貸出金利:国内 0.84%、海外 1.56%
貸倒引当金の割合:0.9%
有価証券等の割合:17.8%
有価証券等の含み損益:1.6兆円(税抜)
経費率:61.8%
ROA:0.4%
ROE:5.9%
※2022.3期時点の数値
割合は貸出金と有価証券等は総資産に対する、貸倒引当金は貸出金に対する割合
その他投資ポイントに興味があれば以下の記事も参考にしてください
みずほフィナンシャルグループ
みずほの主な財務等の内容を紹介します
貸出金の割合:35.7%
貸出金利:国内 0.74%、海外 1.10%
貸倒引当金の割合:0.9%
有価証券等の割合:24.4%
有価証券等の含み損益:7,200億円(税抜)
経費率:62.9%
ROA:0.2%
ROE:5.7%
※2022.3期時点の数値
割合は貸出金と有価証券等は総資産に対する、貸倒引当金は貸出金に対する割合
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あおぞら銀行
あおぞらの主な財務等の内容を紹介します
貸出金の割合:49.3%
貸出金利:1.42%
貸倒引当金の割合:1.46%
有価証券等の割合:23.9%
有価証券等の含み損益:40億円(税抜)
経費率:56.1%
ROA:0.7%
ROE:7.1%
※2022.3期時点の数値
割合は貸出金と有価証券等は総資産に対する、貸倒引当金は貸出金に対する割合
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参考:3メガバンク比較
3メガバンクを個人的に重要視している視点から比較してみました
比較することで各金融グループのメリット・デメリットが明確になり、投資の参考にできます