不動産といえば、お住まいの家や買い物をするスーパー、勤めている会社があるビル・・・など、生活に身近な業種の1つです
一方で、個人で日常的に売買や賃貸する機会はほとんどなく、不動産投資をされている方を除けば、売買は生涯でも1~数回程度、賃貸も一度借りてしまえば、毎月の家賃支払い以外は意識することがあまりありません
身近なようで親しみがあまりない業種ともいえます
この不動産業がどのような業界で、投資家目線ではどのようなポイントに目を向ければいいか
会計士として不動産業にも長らく関わった経歴と、不動産銘柄への投資も主力として行ってきた経験から紹介していきます
なお、結論的な部分だけを知りたい方は「事業区分ごとの投資目線/販売事業および賃貸事業」の部分だけを読み進めてください
※ただし、以下の内容はあくまでも私見ですので、数ある中の1意見として参考にしてください
目次
不動産銘柄の魅力
まず以下で詳しく説明する点含めて、不動産銘柄の魅力を紹介しておくと、
- 低PER銘柄が多い
- 業績予想がしやすい
- リスクは高めだがそのリスクは早い段階で把握しやすい
低PERの企業の業績が、これから短期的に大きく伸びることを高い確度で予想できたとしたらいかがでしょうか。
高PER企業と比較して、株価が急騰する可能性が高く、それを事前に察知して安値の間に仕込み、好業績が発表された時点での上昇の波にうまく乗ることができます
もちろん低PERには理由があります
有利子負債比率が高く、自己資本比率が低いこと、言い換えれば倒産確率が比較的高い
他にも市況の悪化の影響を他の業種よりも受けやすく、実際にリーマンショックの時も、上場企業の中で倒産が多いことなどがあります
しかし、個別銘柄の下落リスクに関しても業績が予想できれば、業績悪化も早い段階で予想できます
他にも金利の上昇や市況の悪化という比較的わかりやすい点を把握するだけで、不動産業界全体の下落リスクも、早い段階で把握することが可能です
これらの点を詳しく説明していきます
不動産業の大まかな事業区分と性質
まず不動産業とひとくくりにしても、収入形態などが違います
大きく収入形態による事業区分に分けてみてみると、
- 販売事業
- 賃貸事業
- 仲介/コンサルティング事業
- 管理/マネジメント事業
この4つなります
それぞれどんなものかまとめると
販売事業
「土地や建物を購入したり、新たに建築するなどして商品として売る」事業です
性質としては、
- フロー収入(売却の都度、売上が発生するもの)
- 比較的多額の資金が必要
- 1度に大きな収入を得られる
- 不動産価格の変動に大きな影響を受ける
- 借入が大きくなる場合が多く、金利変動の影響が大きい
レバレッジで大きな収入を比較的短期に得られる一方で、リスクは高く、フロー収入のため、繰り返しやり続けないといけません
賃貸事業
「土地や建物を購入したり、新たに建築するなどした不動産を賃貸する」事業です
性質としては、
- ストック収入(テナント/賃借人が借りている間は定期的な収入が得られる)
- 比較的多額の資金が必要
- 安定収入は入るが、投資額に対する毎期の収入は小さい
- 不動産価格の変動や市況の変化に賃料が影響を受ける
- 空室リスクが伴う
- 維持費がかかる
- 借入が大きくなる場合が多く、金利変動の影響が大きい
ストック収益で安定的な経営が可能となる一方、投資を回収するまでの期間が長くなり、市況の変化の影響も大きくなります
仲介/コンサルティング事業
「不動産の売買や賃貸の仲介や不動産に関する設計や企画などの提案、コンサルティングを行う」事業です
性質としては、
- 基本的に手数料収入のためフロー収入
- 資金をあまり必要としないため、借入も不要
- 収入の額は基本的に小さい
- 案件の獲得には多くの情報収集などが必要となり簡単ではない
- 不動産の市況などによる保有資産の価格下落リスクはないが、案件数の減少による影響を受ける
在庫リスクはありませんが、収入が小さく利益を大きくするには案件数を増やしていく必要があります
管理/マネジメント事業
「不動産の管理やリート/ファンドの運用などのマネジメントを行う」事業です
性質としては、
- 不動産の管理など定期収入となるストック収入が基本
- 資金をあまり必要としないため、借入も不要
- 収入の額は基本的に小さい
- 不動産の市況などによる保有資産の価格下落リスクはないが、案件数の減少による影響を受ける
- 管理やマネジメントの案件獲得には、実績などの信用力がある程度は必要
在庫リスクはなく、契約が取れれば比較的安定収入が見込めます
一方、契約ごとの毎期の収入は小さく、高収入の契約を取るにはある程度の実績や信用力などが必要です
事業区分ごとの投資目線
上記の通り、事業区分ごとに性質が異なるため、投資目線や投資戦略も分けて理解を深めておく必要があります
順に見ていくと、
販売事業
リスク
まず以下の点がリスクであることを理解する必要があります
- フロー収入
- レバレッジ経営(基本的には借入などの資金調達を前提に仕入れや開発を行う)
- 金利変動や景況感により需要(販売単価と契約数)と株価が影響を受けやすい
- 仕入れから開発、販売まで1,2年以上を要する(戸建事業は除く)
これらから言えることは、
前期が好業績だったから今期も好調とは限らない
仕入れてから販売までの期間が他の業種と比較して長いために、市況が大きく変わる可能性がある(急な利上げやリーマンショックのような急激な市況の冷え込みなど)
そのために急な市況の変化に即座の対応が難しい事業形態でもあります
リーマンショックの時を例にとってみると、
リーマンショック前の不動産市況が好調な時(価格が上昇している時)に仕入れ、開発をしていた場合に、
突如不動産が売れなくなり、不動産価格が急落する
これにより開発していた不動産が売れなくどころか、仕入時の値段よりも保有不動産価格も下がってしまい、借入金額よりも低い評価しかなくなり、売却したとしても借入返済もできない状況になる
これにより多くの不動産会社が資金ショートし、倒産してしまいました
リーマンショック時は、上場企業では不動産と建設の各業界の倒産が突出して多かった理由でもあります
戦略
上記のリスクを読んでもらって納得してもらえたなら、まず守りの戦略は、
不動産の仕入・開発をメインにしている企業への投資は、金利の急な上昇や景気の明らかな減速が始まった場合には、早めに撤退しておく必要があります
これは比較的シグナルがわかりやすいため、そういった情報を日々モニタリングしておけば大丈夫です
攻めの戦略としては、
販売事業は転売や戸建事業を除けば、土地の仕入れから開発、販売まで最低でも1,2年は要してしまうため、決算近くなると来期の売上予想が比較的容易にできます
これは決算前までに仕入れたものでなければ、開発が来期中の完成には間に合わず、再来期以降の売上になるためです
また分譲マンションは引渡時期(売上計上時期)が明示されているため、どの物件がいつ頃売上計上されるかが事前にわかります
あとはそのマンションの契約進捗も決算資料などで公表されていれば、より具体的に把握できます
他にはその会社が投資用(ワンルーム)マンション主体なのか、2~3LDKのようなファミリータイプの分譲マンション主体なのかにより、単価も地域ごとに容易に予想が可能です
マンション以外でも、IRを積極的に行っている企業であれば、何をどれだけ仕入れ、いつ頃に完成するか、既に契約済のものの金額など公表されていることも多いです
決算資料を読み込めば、四半期ごとの売上高や来期予想がしやすい業種です
一方、転売や戸建事業が主力の企業は、1つ1つの不動産の仕入れから販売までのサイクルが短くなるため、予想精度は落ちますが、必要な情報を取得できれば、それなりの予想が可能です
これができれば、四半期決算ごとの業績予想や来期計画予想が高い角度で可能となり、勝負しやすくなります
以下のポイントを踏まえて、銘柄選びと企業分析やってみましょう
- IR資料が丁寧
特に物件の引き渡しや完成時期、契約状況、契約金額などがある程度明確に示されている - 展開している地域の価格(単価)や売れ行きのチェック
特に首都圏で展開している企業がオススメ
需要と販売価格が高く、他社比較でも需要や販売状況の把握がしやすい - 得た情報から業績の積み上げと予想
どのタイミングで何が売れるかを組み立てて、後は過去の実績からおおよその原価や販売費を予想、営業利益を算出
賃貸事業
リスク
- 景況感や市況の変化により需要(賃料や空室リスク)が影響を受けやすい
- レバレッジ経営(基本的には借入などの資金調達を前提に仕入れや開発を行う)
- 借入による資金調達の場合は返済が長期に及び、また、BSが重くなり、資本効率や自己資本比率が悪くなる
- 金利上昇は収益性を圧迫しやすく、株価も影響を受けやすい
賃貸事業主体の会社は、既存の収益物件を取得してくることもありますが、多くは自社開発です
そのため完成にはだいたい2年以上の複数年となることが通常です
また、土地の仕入れや建物の建築など先行投資が必要で、その後の賃貸収益により10年を超えるような長期間で回収するビジネスモデルです
このため、仕入れ後の開発中や賃貸開始以降で、市況が冷え込めば、賃料の下落や空室率の悪化など、当初想定以上に収益性が悪くなり、投資回収が難しくなるリスクがあります
また、この場合には物件価格も下落しており、売却による投資回収も難しくなっている場合が多いです
ただし、これらのリスクは、オフィスなど空室率が公表されており、また、賃料も調べれば相場観は把握することが可能です
そういった日々の情報収集を怠らなければ、賃料や空室率の悪化を早いタイミングで把握し、早めの撤退が可能です
戦略
賃貸事業はストック収益がメインです
そのため大型物件、多数の物件の完成や取得がない限り、業績が短期で大きく伸びることはほとんどありません
一方、収益もリーマンショックのような場合を除けば、短期間で大きく落ち込むこともまずない安定的な事業です
賃貸事業は、キャピタルゲインよりも高配当なインカムゲインのほうが性格的に相性が良いです
そのため比較的低PERで配当性向の高い銘柄が個人的にはオススメです
もちろん選ぶ際は過去の業績、株価および配当額の推移は確認してください
あとは賃貸物件がどの業種、どの地域に多いのかなどもチェックしておくと良いです
これらから保有物件や完成予定物件の収益を積み上げていけば売上の想定が立てやすくなります
あとは過去の推移から原価率や販管費の推移に基づき予想すれば、営業利益は比較的予想できる事業です
以下のポイントを踏まえて銘柄選びと企業分析やってみましょう
- どんな賃貸物件をどのくらい保有しているかをチェック
住宅、オフィス、商業施設などをどのくらい保有し、保有割合や収益率などを把握 - 過去からの業績や株価、PER、配当利回りなどチェック
インカムゲインを目的として、できる限り株安の際に仕込むべく、購入する株価水準 - KPIとその動向を示す先行指標の情報収集
上記で把握した情報を基に各業種の最新の空室率や賃料、人流、市況の変化の情報を取得できるサイトなどをモニタリング
例:オフィスであれば、三鬼商事㈱から空室率や平均賃料が随時公表されています
仲介/コンサルティング事業および管理/マネジメント事業
2つに分けていた「仲介/コンサルティング事業」と「管理/マネジメント事業」はあまりオススメできないため、まとめておきます
理由としては、
- 事業規模(会社規模)が大きくなりにくい
→今後の成長を描きにくい - 新規契約取得が難しい
この事業は大手・中堅では自社グループで子会社を有していることが多く、小さな案件を取得することになる場合が多い
これら2つの事業区分は、この事業のみで上場している企業はほとんどありません
不動産業の上場企業では、既に挙げた「販売事業」と「賃貸事業」を行っている場合がほとんどです
三井不動産や三菱地所などの大手になると、この両事業をバランスよく展開していることが多く、それらに付随して仲介やコンサルティング、また、管理やマネジメントもグループ内で展開しています
中堅あたりになると販売、または、賃貸のどちらかに偏る傾向がありますが、それでも仲介やコンサルティング、管理、マネジメントは自社グループ、または、大手グループ会社などへ委託している場合が多いです
そのため、これらの事業区分については、どんな事業なのか程度を知っておいてもらえれば良いです
これらが不動産銘柄への投資判断の重要なポイントになることはあまりありません
最後に
不動産業は4事業区分に分けましたが、重要な事業は「販売事業」および「賃貸事業」のみです
この2つの事業の「リスク」と「戦略」を明確にしておいてもらえれば、日々の市況などの動向をチェックし、業績予想を定期的に見直しをすることで、大きく負ける可能性は小さく、着実に勝ちを積み上げることも可能となります