会計基準・・・これを聞いただけで難しく感じる
確かに難しい点が多々あります
でも、企業分析をする上では基本的なことは知っておいたほうが良く、その中でも日本の基準とグローバル展開している多くの日本企業が採用する国際的な基準の違いを知っておくことも大事です
すべてを知る必要はなく、知ろうとしても奥が深く難しいため、ここでは投資家目線で最低限知っておいたほうが良いと考えるポイントに絞って紹介していきます
目次
知っておくべき重要項目
誤解を恐れずに特にお伝えしたいことを先にまとめておくと、以下の2点です
- 国際会計基準(IFRS)では、営業利益内に日本基準でいう「特別利益」や「特別損失」のほとんどが含まれる
これによりIFRSの営業利益のほうが、日本基準の営業利益よりも、一時的な影響を大きく受けやすい - IFRSでは、のれんの定期償却(費用化)がない
日本基準では企業を買収した際など、「のれん償却費」負担が重くなりがちですが、IFRSではこの費用化がないため、場合により営業利益に大きな違いが出る
これらは日本基準とIFRSのそれぞれで作成された資料を比較するうえで、特に違いがある点になります
この2点含め、日本基準とIFRSの違いについて、以下にて説明していきます
前半に会計基準についての説明もしていますが、不要な場合は「日本基準とIFRSの違い」から読み進めてください
※以下は初中級者向けに、概要を理解していただくことに重きを置いているため、厳密には相違する点もありますが、あくまでこの視点に基づき記事を作成していることをご理解ください
会計基準とは
企業分析において、企業の会計処理や業績の前提となる会計には、会計基準というものがあり、この基準に基づき売上から利益、資産や負債などが処理、計算されています
もし、会計基準がなければ各企業が好きなように会計処理ができてしまい、自社にとって都合良く処理をし、信頼性や比較可能性が失われてしまいます
株式市場において、信頼性や比較可能性は重要事項です
この信頼性や比較可能性を担保するために、会計基準が定められ、この基準に基づき企業側は会計処理をし、監査人(公認会計士および監査法人)が監査を行います
この重要な会計基準ですが、グローバルの視点で見ると、多くの会計基準が存在しています
日本企業に採用されているものの多くは、日本基準、IFRS、米国基準の3種類です
※日本版国際会計基準(J-IFRS)なるものもありますが、重要性は低いため、ここでは省略しています
米国基準を主に採用している企業は少なく、かつ、米国基準とIFRSは互いに歩み寄ることで、親和性が年々高くなってきています
日本基準もIFRSとのコンバージェンスと言われる調整を続けてきており、差異は少なくなってきています
しかし、まだ一部で重要な差異があるため、
日本基準とIFRSとの違いについて、重要なポイントに絞って見ていきます
日本基準とは
日本基準について簡単にだけ紹介しておくと、
この日本基準の基となるものとして、基本的には企業会計基準委員会から「企業会計基準」が公表され、適用されます
このベースとなっているものが、1949年に制定された「企業会計原則」です
企業会計基準の下に実務用として「企業会計基準適用指針」という、実際の会計処理を行っていくために、企業会計基準が具体化されたものがあります
これら以外に法律ベースでも見ていくと主に
- 金融商品取引法
- 会社法
- 税法
なども日本の企業会計のベースを作る1つで、法律面でも会計の信頼性を一部担保されています
これらはすべて日本の法律や商習慣などに基づき、作成および修正がなされてきたため、名前の通り日本独自の基準です
もちろん、IFRSなどとの調整も続けてきていることから、グローバルな流れからも多分に影響を受けていますが、基本的には日本企業にのみ適用され、日本でのみ通用する基準です
国際会計基準(IFRS)とは
IFRSとはどんなものか
IFRS:International Financial Reporting Standardsの略
国際会計基準審議会(IASB)が策定した、国際的にも通用する最もグローバルスタンダードとなっている会計基準です
欧州連合(EU)では、EU域内の上場企業に対して、IFRSの適用を義務付け、EU域外の企業にもIFRSまたは同等の会計基準の適用を義務付けたことにより、世界的にも急速に採用されるようになりました
このような性質の会計基準であるため、日本企業でもグローバルに展開する多くの企業は、IFRSを採用しています
日本基準とIFRSの違い
日本基準とIFRSの違いは細かいものまで含めると、多岐に渡ります
そのすべてを紹介しようとすると膨大な量となるとともに、僕自身もすべてを理解できておらず、そのすべてを説明することはできません
また、投資家目線ではすべてを理解しておく必要はなく、重要なポイントを理解しておくだけでもかなり役立ちます
ここで紹介する主なポイントとしては、
- 損益計算書(PL)の表記や区分の違い
- 貸借対照表(BS)の表記や区分の違い
- 主な会計処理の違い
について紹介し、また、各項目においてもトピックごとに小区分に分けて紹介していきます
損益計算書(PL)の表記や区分の違い
PLではどういったところが違うのかを「名称」と「区分」における主な違いについて見ていきます
名称の違い
そもそも損益計算書(PL)と記載しましたが、この名称である必要もなく、「包括利益計算書」など名称が違う場合もあります
※ここでは名称の違いは気にせずに、業績を表すものを統一して「PL」と表記します
日本基準には「売上高」などの明確な名称が指定されていますが、IFRSには名称に具体的な指定はありません
この点が日本基準に基づいて作成されたPLと、IFRSに基づいて作成されたPLの比較をわかりにくくしている点の1つです
よく使われる名称の違いで、同じような意味合いと示すもののうち、基本的なものをまとめておきます
※ただし、厳密に言えば全く同じ意味合いでないものも多く存在することから、ここでの比較表記はあくまで参考例としてご参照ください
日本基準/IFRS
・売上高/営業収益など
・原価および販管費/営業費用など
※上記2点には一部相違する部分があるため、次の「区分の違い」でご確認ください
・受取利息や受取配当金など/金融収益
・支払利息など/金融費用
・経常利益/ほとんどの場合なし
区分の違い
区分にも大きく違いがあり、日本基準では「売上高」、「売上総利益」、「営業利益」、「経常利益」、「税金等調整前当期純利益」、「当期純利益」と上から順に表記する必要がありますが、名称同様にIFRSにはこの決まりがありません
特に知っておいてほしい点は、日本基準には「特別損益」がありますが、IFRSにはありません
日本基準でいう特別損益は、IFRSでは継続事業(企業が生業として取り組んでいる事業)について発生したものであれば営業利益に含まれ、それ以外であれば営業外に含まれます
これがどのような違いを生むかというと、例えば
日本基準では不動産を事業として営む企業以外の土地の売却損益は、特別損益へ含まれ営業利益には含まれません
一方IFRSではその多くは営業利益に含まれます
そのため土地売却益が大きかった場合に、IFRSでは営業利益が会社の実力以上に大きく計上されることがあり、日本基準と比較して、営業利益ベースでの企業の本来の実力の比較が難しくなる場合があります
もちろんこれは土地の売却だけに言えることではなく、特別損益に出てくる一時的な利益・損失により大きな違いを生み出す場合があり、注意が必要です
IFRSで作成されたPLには、この点において、他社比較や過去との比較についてミスリーディングしてしまう場合があります
貸借対照表(BS)の表記や区分の違い
BSではどういったところが違うのかを、PLと同様に「名称」と「区分」における主な違いについて見ていきます
貸借対照表(BS)もPLと同様にと、IFRSではこの名称である必要もなく、「財政状態計算書」などの名称が違う場合があります
※ここでも名称の違いは気にせずに、企業の資産や負債などの財政状態を表すものを統一して「BS」と表記します
日本基準のBSは基本的に、「資産」、「負債」、「純資産」に大区分されます
次に各項目は、
資産:「流動資産」、「固定資産」、「繰延資産」
負債:「流動負債」、「固定負債」
純資産:「資本金」や「利益剰余金」などのいわゆる「株主資本」とそれ以外
に区分されます
これより詳細な区分は書き出すとキリがないため、この辺りにしておきます
一方IFRSでは、資産も負債も「流動」か「非流動」かにより区分されることが一般的です
また配列方法も日本基準のように流動資産・流動負債から並べる必要はなく、企業の裁量により決めることができ、自由度が高くなっています
個別の項目については、PLの場合ほど紛らわしい項目名称はなく、名称で理解ができるものがほとんどであるため、個別名称の比較については省略します
BSは比較する際に、PLほど紛らわしい・難しい点は少ないです
主な会計処理の違い
会計処理については多岐に渡る違いがまだ残されていますが、この中でも投資家目線でPLやBSに大きな影響を与えると考えるポイントについて、見ていきます
のれん
のれんとは企業などを買収する際に、企業の資産と負債の差額である純資産と、買収に要する対価との差額です
そのためのれんの多寡は、買収にどれだけ対価を支払うかにより変わってきます
のれんは、BSの資産の部(無形固定資産)に記載されます
また、のれんは上記の前提に基づくため、のれんには基本的には実際の資産性(換金性)はありません
次に発生したのれんはどのように会計処理されるか
ここに日本基準とIFRSには、大きな違いがあります
日本基準:
①20年以内の適切な年数を設定し、その年数で定額費用処理(のれんの償却)
②買収した企業や事業などの収益性が一定程度以上悪化した場合に減損を行う
IFRS
②買収した企業や事業などの収益性が一定程度以上悪化した場合に減損を行う
違いは端的に述べれば、日本基準の①がIFRSにはありません
これがどのような影響を生むかを見ていきます
A社(日本基準)とB社(IFRS)があり、採用している会計基準以外はすべて同じとします
A社もB社もまったく同じであるC社を買収し、のれんが100億円発生しました
A社は日本基準を採用しているため、のれんを10年で償却(10億円/年の費用が発生)
B社はIFRSを採用しているため、のれんの償却はありません
A社もB社も毎年100億円の営業利益を出していた場合に、
A社営業利益:100 - 10 = 90億円(のれん償却10億円の負担あり)
B社営業利益:100 - 0 = 100億円(のれん償却の費用負担なし)
と利益が相違します
実際やっていることは全く同じであっても、採用する会計基準が違うだけで、このようにPLに表れてくる業績が大きく違ってくる場合があります
現時点では、のれんが日本基準とIFRSでは、インパクトの大きい差異になっています
他にはリース会計も企業によっては大きな差異を生み出す場合もありますが、
本記事は初中級者向けとして書いているため、紹介は割愛します
ここでは、特に影響の大きいと考えられるのれんに絞って紹介しました
のれんだけかーい!というツッコミは受け付けません(笑)
最後に
ここで紹介したものについては、日本基準とIFRSの違いのほんの一部でしかありません
他にも多岐に渡る違いがあり、これらが会計や企業分析をより難しくしている1つの要因となっています
初めにも書いた通り、すべてを理解する必要はありませんが、
- 複数の会計基準があり、各企業がそれらに基づき作成していること
- 各会計基準には違う部分が多々あり、業績などへ与える影響が大きいこともあること
このことだけでも知っておくと、企業分析の際の見方が変わります
企業分析をしていく上で、不明な点や理解できない点が出てきた際に、都度調べてみてください