金融業界の企業の業績(PL)や財務(BS)は見たことがあるでしょうか
他の業種と違い見慣れない項目をよく見かけると思います
まず、売上高がない(笑)
預金も負債にあったりとか
これは金融業界、特に銀行や保険が特殊な収益形態であることに起因します
ここでは、金融業界の代表的な業種である銀行に焦点を当てて特徴やリスクを理解し、PLやBSも含めた業績や財務の状況の理解を深める1つにしてもらえるよう紹介していきます
目次
知っておきたい特殊性やリスク
銀行は他業種と比較しても異質な業種です
これを知らずして投資をすると、好調な時はもちろん問題ありませんが、不況・不調に陥った時に予想していなかった多額の損失を計上により配当ストップ、そのうえ株価が暴落…なんてことにもなりかねません
個人株主である僕たち程度では株価の暴落を防ぐことはできませんが、銀行の特徴やリスクを知っておくことで、
・高配当が継続できるかどうか
・利益の悪化や株価の暴落を察知できるかどうか
この大事な2点において対応がまったく変わってきます
以下の点を上記の2点も念頭に置きながら見ていきます
銀行の知っておきたい特徴
- 自己資本比率やROAの低さ
- 金利の影響
- 経費率
- 業績や財務
※「業績や財務」のみ後半に別項目を設けて説明します
銀行の知っておきたいリスク
- 金利の変動
- 貸付に対する与信費用
- 有価証券の保有額とその評価額
銀行の特徴
自己資本比率やROAの低さ
銀行の大きな特徴として言えることが、資産と負債の規模が非常に大きいことです
これは昔から多額の資金(主に預金)を集めて、その資金を貸し出すことで、利息収入を得るというビジネスモデルだからです
現在まで長らく金利が低く低迷していたこともあり、このモデルだけでは稼ぐことが難しくなっており、このモデルからの収益比率は減少してきていますが、それでも主要な事業であることは変わりありません
一般に企業や僕たち個人の預金は資産に分類されるものですが、銀行は預金者から預かりいずれ返却するものであるため、預金は負債に分類されます
これにより預金者から預金を集めれば集めるほどに資産と負債が膨れ上がるため、
預金が増える
→ 負債が大きくなる
→ 自己資本比率が低下する
という流れになります
そのため、一般的な銀行の自己資本比率は10%程度と、他の業種では危険と見なされる水準しかありません
また、長らく金利が低下し、貸出金利が低いことが拍車をかけていますが、貸付に対する利息収入は数%程度、近年は1%前後です
もちろん、資金は貸付だけではなく、国債などの債券や株式、投信などの有価証券でも多額の資金を運用してますが、それでも1~3%程度の利回りです
ここから経費などの費用を引いていくので、もうお分かりの通り、ROAはほとんどの銀行が1%にも届かず、0.2~0.4%のような低い数値にならざるを得ません
ROA:総資産経常利益率を前提
総資産に対する経常利益の割合(%)
これは銀行の特有のビジネスモデルの結果であり、自己資本比率やROAなどの指標を一律に基準を決めたスクリーニングをすると、まず銀行は除外されてしまい、個人的には適切なスクリーニングとは言えないと思っています
特に自己資本比率での安全性の判断には大きな問題もあり、多面的な視点が必要です
銀行は貸付や有価証券からの収入、各種手数料収入、大手であればその他証券やリース、カードなどがあり、収益の多角化や安定的収益を生み出す源泉などもあり、注目すべき業種の1つと考えます
金利の影響
現在は日本以外の多くの国で積極的な利上げを実施しています
一方、日本は金融緩和の維持を一応まだ続けています
この影響が最も顕著に出ているのが為替、次に債券価格や株価といったところでしょうか
話を戻しますが、金利の影響は銀行にどのような影響を与えるか
実はこれを説明するのは難しく、答えも意見が分かれるところでもあります
あくまで個人的な意見としてではありますが、基本的には、
金利の上昇 → 資金取引の収益の向上
金利の低下 → 資金取引の収益の悪化
の図式は長期的には成り立ち、これは容易に想像つくと思います
しかし、短期的には簡単にこうはなりません
なぜなら政策金利が上昇したからといって、企業や個人に貸し付けている金利も、同じように上げられるかと言えばそうではないからです
住宅ローンをイメージしてもらえるとわかりやすいですが、一律の金利ではなく、借りたタイミングにより金利が違うのが一般的です
そのため長期的には徐々に貸付金利も上昇しますが、短期的には効果が出にくいことが理由です
これ以外に業績に大きな影響を与えるものがありますが、こちらは後ほど「銀行のリスク」のところで説明します
経費率
銀行株を保有しててもあまり注目されませんが、重要なポイントとして「経費率」があります
経費率 = (営業)経費 / (連結)粗利益
※(連結)粗利益:一般的な売上総利益のようなもの
銀行の現在の経費率は60~70%程度が一般的です
例えば、60%を切るあおぞら銀行(あおぞら)は非常に優秀、SBI新生銀行は70%を超えており、構造改革が急務な状況です
この経費率は何が重要かというと、その名の通り経費の割合のため、収益性を示す重要な指標です
経費率が低いほど収益性は高くなります
この経費率を見るだけでもあおぞらの収益性は非常に優秀で、高配当を続けてこられたことがよくわかります
銀行株へ投資を検討する際、この経費率は必ずチェックしておくべき指標の1つです
なお、大手3行とあおぞらの2022.3期の経費率を載せておくと、このように違いがあります
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG):69.3%
三井住友フィナンシャルグループ(SMFG):61.8%
みずほフィナンシャルグループ(みずほ):62.9%
あおぞら:56.1%
経費率だけ見ると、あおぞらは優秀な一方、MUFGは収益性が悪いともいえ、大きな違いがあります
銀行のリスク
銀行の大きなリスクと言えるのがすでに先に挙げた、
- 金利の変動
- 貸付に対する与信費用
- 有価証券の保有額とその評価額
の3点です
この3点は、ほとんどすべての銀行に潜在的に存在するリスクです
多くの銀行が、リーマンショックの時などにこれらのリスクにより、過去に多額の損失や費用を計上しています
銀行は多額の預金を集めて、その預金はほとんどを「貸付」と「有価証券(債券や株式、投信など)」に運用することで利益を得ることが主要なビジネスモデルの1つです
しかし、以下のようなリスクが存在しています
- 金利の変動による収益性への影響リスク
- 貸付先の経営破綻などよる回収できないリスク
- 有価証券は評価額が下がることによる含み損・売却損のリスク
このそれぞれのリスクについて具体的に見ていきます
金利の変動
「銀行の特徴」のところですでに金利の影響の話は簡単にしました
再掲になりますが、長期的には、
金利の上昇 → 資金取引の収益の向上
金利の低下 → 資金取引の収益の悪化
となり、金利の変動が銀行の収益の向上、悪化に大きくかかわってきます
リスクとして、金利の低下を見ていくと、
資金を調達するためのコスト(預金利息)は下がるが、それ以上に収益の源泉である貸出利率も下がり、貸出利率のほうが低下のほうが大きいため収支が悪化します
実際に金融緩和が実施されてからは、銀行の資金取引の収益性は悪化してきました
特にこれにより体力のない地方銀行などは、赤字に追い込まれているなど深刻です
そして、注目すべき問題は金利が上昇する局面です
上記の逆であるため、銀行の収益性は向上する…と言いたいのですが、現在のビジネスモデルではそう簡単ではありません
上記の逆の状況となるため、記載の通り長期的には貸出利率の上昇により資金取引の収益性は向上します
しかし、短期的には収益性が悪化する可能性も結構高いです
なぜか?
有価証券の保有と評価額に大きな理由があり、本項目の3番目にて改めて説明します
貸付とその与信費用
銀行では、資産(預金者から集めた資金)の運用の多くは「貸付」です
どのくらいの割合かは各行によりますが、参考に後ほど取り上げているMUFG、SMFG、みずほ、あおぞらの2022.3期の総資産に対する貸付金額を見ていくと、
MUFG:29.5%
SMFG:35.2%
みずほ:35.7%
あおぞら:49.3%
となっています
金融グループの規模が大きくなるにつれて、特定取引資産(後ほど用語説明あります)なども含めた有価証券の保有やその他の資産が増えるため、比率が低くなっています
貸付金額に対する貸倒引当金は、貸付金額に対して多くは1%前後となっています
貸倒引当金:将来の貸付回収不能額を予想して先に費用計上しておき、手当しておくこと
与信費用:回収不能額を予想して費用化、または、実際に回収不能となり費用化したもの
ただし、リーマンショックや不況時になるとこの比率が上昇します
仮に現在の残高に対して1%上昇するだけで、貸付金額の1%を費用・損失として計上することになり、1%といえども多額です
ちなみにMUFGでは、2022.3期「貸出金」残高:110兆円、もし1%上昇すれば1兆1,000億円の与信費用の追加計上、経常利益のほとんどが吹き飛ぶ計算です
また、最近はマレリの経営破綻でも各金融機関の貸倒れにより、損失負担が話題になりましたが、
過去のJALなど大口融資先が経営破綻などした場合には、貸付すべてが損失となるリスクも常にあります
これが銀行に常に存在する損失リスクであり、個人投資家レベルではどうしようもないですが、このような大きなリスクがあることは知っておくことが大事です
有価証券の多額の保有とその評価額
銀行が比較的多額に保有しているのが国内外の国債、その他債券です
債券は金利が上昇すれば価格が下がるという関係にあります
そのため、現在は多くの銀行にて外国債を中心に大きく評価額を下げており、今後損失が発生するリスクが高くなっています
株価も債券の利回りが上昇すると株式の相対的な利回りが下がるため、その分株価が下落する傾向にあります
実際に2022年に入ってからは、米国株中心に世界的な利上げと株安となってしまっています
これにより保有する債券および株式、投信など「その他有価証券」も同様に軒並み評価額を下げる、その影響が大きくなると損失計上に迫られることにもなる可能性があります
以上のように、銀行独特の特徴とリスクがあるため、知っておくと銀行への投資の理解が深まります
銀行の業績や財務の特殊性
銀行の貸借対照表(BS)や損益計算書(PL)には多くの特殊性にあります
これは銀行の基本が、僕たち預金者からお金を集めて、そのお金を貸付や投資などの運用によって儲ける事業形態であることに起因します
例えば、通常は預金と言えば「資産」ですが、銀行に限って言えば、預金者から「お金を預かっている」ため、いずれ返す必要がある「負債」となります
他にも他の業種ではあまり見られない、銀行独特の科目も多いので、主なものをここで紹介します
※これより先はご興味のある方や、銀行のPLやBSを読まれる際に科目の意味を知りたい場合にご活用ください
銀行のBS
銀行のBSで他では見ない科目について一覧にしておきます
参考として、事前にSMFGのBSを載せておきます
三井住友FG‗2022‗03tanshin
参照:SMFG 2022年3月期 決算短信
- 資産の部
現金預け金
コールローン
買入手形
買現先勘定
債券貸借取引支払保証金
買入金銭債権
特定取引資産
金銭の信託
外国為替
支払承諾見返
- 負債の部
預金
譲渡性預金
コールマネー
売渡手形
売現先勘定
債券貸借取引受入担保金
コマーシャル・ペーパー
特定取引負債
借用金
外国為替
信託勘定借
特別法上の引当金
支払承諾
上記の各科目について、一般社団法人全国銀行協会(全銀協)における「勘定科目の説明」に基づいて、紹介してきます
ただし、読んでいただいてもよくわからない科目も多いと思いますので、「ふーん」くらいで理解しようとしなくても大丈夫です
現金預け金/預金/譲渡性預金
現金預け金:
現金:本邦通貨+小切手・手形(支払期日到来の公社債および利札、株式配当金領収証等を含む)+外国通貨+金
預け金:日銀預け金+ゆうちょ預け金+他の金融機関等への預け金+譲渡性預け金(譲渡性預金の預入、購入)
預金:預金者から預かった各種預金
譲渡性預金:第三者に指名債権譲渡方式で譲渡することができる無記名の定期預金証書
コールローン/コールマネー
コールローン:コール市場を経由する資金貸付(資金の貸し手側の勘定)
コールマネー:コール市場を経由する資金借入(資金の借り手側の勘定)
コール市場:金融機関や証券会社相互間のきわめて短期(通常1日)の資金の貸し借りを行う場
買入手形/売渡手形
買入手形:手形割引市場またはBA市場で買い入れた手形
売渡手形:手形割引市場またはBA市場で売却した手形
BA市場:貿易決済のために輸出入業者等が振り出し、銀行によって引受けの保障が行われた為替手形の流通市場
手形割引市場やBA市場も基本的にはコール市場と同様に、資金の貸し借りを行う場
コール市場と比較して期間が少し長め
買現先勘定/売現先勘定
買現先勘定:買現先取引を処理する
売現先勘定:売現先取引を処理する
現先取引:買い手と売り手が合意のうえ、一定期間の利回りを市中金利の変動とは関係なく事前に確定してしまう仕組みで、債券などをあらかじめ一定の価格で買い戻すことを約束して売買する取引
債券などを担保に現金の貸し借りをしているような取引
債券貸借取引支払保証金/債券貸借取引受入担保金
債券貸借取引支払保証金:現金担保付債券貸借取引における差入担保金
債券貸借取引受入担保金:現金担保付債券貸借取引における受入担保金
買入金銭債権
買入金銭債権:住宅ローン債権信託の受益権証書、貸出金に該当しない電子記録債権等の金銭債権を買い入れた場合に処理する
特定取引資産/特定取引負債
特定取引資産:特定取引勘定設置銀行の資産科目
特定取引負債:特定取引勘定設置銀行の負債科目
特定取引勘定:金利、通貨、有価証券等の相場の変動などを利用して市場取引により利益を得ることを目的とした取引(トレーディング目的の取引)を、貸出や預金のようなトレーディング目的以外の取引と区分して経理するための勘定項目
金銭の信託
金銭の信託:金銭信託+金銭信託以外の金銭の信託
金銭信託:信託銀行などが利用者にかわってお金を管理・運用する金融商品
金銭を財産として委託する信託のことです
外国為替(資産・負債ともに両建てあり)
外国為替:外国為替に関連する取引から発生する資産および負債
支払承諾/支払承諾見返
支払承諾:銀行が行った保証の保証債務
支払承諾見返:保証債務を履行した場合に取得する求償権
コマーシャル・ペーパー
コマーシャル・ペーパー:資金調達として銀行が発行する約束手形方式によるCP
CP(コマーシャルペーパー):企業が短期資金調達の目的で、公開市場で割引形式で発行する無担保の約束手形
無担保で通常1年以内に返済期限が来る短期の資金調達の方法
借用金
借用金:以下の2つ
再割引手形:日銀に売却した適格手形+手形割引市場で売却した割引手形
借入金:日銀借入金+他の金融機関等からの借入金(劣後特約付借入金を含む)+当座借越
ざっくりイメージでいうと、銀行も日銀などから借入金や手形の資金化など
信託勘定借
信託勘定借:信託勘定の余裕金または未運用元本を銀行勘定で運用する場合の受入科目
特別法上の引当金
特別法上の引当金:有価証券の売買その他の取引又はデリバティブ取引等の取引量に応じ、法令の定めにより積み立てられた準備金
現在は金融商品取引法に基づく準備金の積み立てが義務付けられている
銀行のPL
銀行のPLで他では見ない科目について一覧にしておきます
参考として、事前にSMFGのPLを載せておきます
三井住友FG‗2022‗03tanshinPL
参照:SMFG 2022年3月期 決算短信
- 経常収益:一般事業会社の「売上高」に相当
- 経常費用:一般事業会社の「売上原価」と「販売費及び一般管理費」を合わせたものに相当
ただし、上記二つには一部「営業外収益/費用」に該当するものも含まれる - (連結)粗利益:一般事業会社の「売上総利益」に相当
一般に、銀行本来の業務からの利益である「資金利益」、「役務取引等利益」、「特定取引利益」、「その他業務利益」の合計が業務粗利益 - 業務純益:一般事業会社の「営業利益」に相当し、銀行の本業での収益力を表す
基本的には、「粗利益」-「(営業)経費」±「持分法による投資損益」 - 資金利益:
貸出金や有価証券で運用することによって受け取る貸出金利息や有価証券の利息配当金等(資金運用収益)から、預金利息など、資金の調達のために支払った費用(資金調達費用)を差し引いたもの - 役務取引等利益:
貸出業務、証券業務、為替業務などにおいて顧客に提供するサービスの対価として受け取った手数料収益から、支払った手数料を差し引いたもの - 特定取引利益:
特定取引勘定で行う有価証券取引やデリバティブ取引等から生じる収益と費用の差額
※特定取引勘定は、さきほどのBSでの説明参照
- 経常収益
コールローン利息
買入手形利息
買現先利息
債券貸借取引受入利息
預け金利息
~受入利息
延払利息
特定取引収益
- 経常費用
預金利息
譲渡性預金利息
コールマネー利息
売渡手形利息
売現先利息
債券貸借取引支払利息
コマーシャル・ペーパー利息
借用金利息
特定取引費用
上記の各種利息
BSで説明した中で資産に分類される「コールローン」、「買入手形」、「買現先」、「債券貸借取引受入」、「預け金」から発生する利息は収益
一方、負債に分類される「預金」、「譲渡性預金」、「コールマネー」、「売渡手形」、「売現先」、「債券貸借取引支払」、「コマーシャル・ペーパー」、「借用金」から発生する利息は費用
~受入利息
「リース受入利息」など「~」の項目から発生する利息
延払利息
割賦取引や分割払いをするような取引に伴い発生する利息
特定取引収益/特定取引費用
BSの項目で紹介した特定取引から発生した収益および費用
※詳しく知りたい方は以下の全銀協の勘定科目の説明ページも参照ししてください